日本イギリス哲学会 / Japanese Society for British Philosophy

第47号 2010.10

目 次

コンテンツ

新会長挨拶

中才敏郎(大阪市立大学)

第18期の会長を務めることになりました。何卒宜しくお願い申し上げます。

このたび、日本イギリス哲学会の会長を仰せつかりました中才敏郎です。日本イギリス哲学会は、星野前会長が指摘されましたように、イギリスの思想全般について、すなわち、哲学、倫理学、美学、宗教学はもとより、歴史学、文学、法学、政治学、経済学、社会学という幅広い分野から、多様な学問的背景をもつ研究者から成る学際的・横断的な学会です。本学会のそのような性格は、寺中平治先生が会長をされておりました折に刊行されました『イギリス哲学・思想事典』において、遺憾なく発揮されました。星野先生がいみじくも言われましたように、「学際性とサロン的雰囲気」こそ、本学会の最大の特徴であると言えるでしょう。

歴代の会長が本学会の課題として真っ先に挙げてこられましたのは、「国際化」であったように思われます。具体的には、研究成果の英語での発信、イギリスを含む外国の研究者との国際的な学術交流などが考えられます。もちろん、このような国際化に取り組むことは当然のこととして今後も継続されなければなりません。しかしながら、それはそれとしまして、私としては足元をもっと固める必要があるのではないかと感じております。会員数はほぼ横ばいの状況が続いておりますが、会員の数はともかくとしましても、イギリス思想を学際的、横断的に語る上で手薄な領域が見られます。シンポジウムの企画においてこれまでしばしば痛感されてきたことですが、せっかく立派な企画が出されましても、会員のなかにその企画を実現するだけの方を見出すことができず、企画を断念するような場面も多々ございました。とくに、文学や歴史、美学の領域でそれが多く見られます。「日本イギリス哲学会」という名称が文学や歴史関係の方々の参加を躊躇させているのかもしれません。たしかに、「哲学」という言葉を狭義に解しますと、文学や歴史、そして美学などは排除されるかもしれませんが、この学会がそのような狭義の「哲学」の学会でないことは会員の皆様がすでにご承知のことと思います。「学際性とサロン的雰囲気」を今以上に充実させるためにも、イギリス文化の研究に携わるいっそう多くの方々の参加を勧めていくべきかと考えております。

日本イギリス哲学会は、設立当初から、関東に事務局が置かれてきましたが、2000年(平成12年)に神野慧一郎会長の下、大阪市立大学に事務局が置かれてから、その後、早稲田大学、京都大学、聖心女子大学と、東西で交互に事務局を置くという流れが定着するかと思われました。ところが、聖心女子大学のあと関西で事務局を引き受けることができませんでした。これは私個人にも大いに責任があるのですが、私の勤務先である大阪市立大学は、当時人員削減の嵐の中、とても事務局をお引き受けできる環境にはありませんでしたし、さりとて関西で事務局を引き受けていただける大学も他になく、関東で事務局をお願いするしかありませんでした。

大学を取り巻く状況はますます厳しさを増しておりましたが、星野会長の下、ご無理を重々承知の上で、法政大学で事務局を引き受けていただくことになりました。法政大学は、このような状況のなかでも、滞りなく事務局のつとめを遂行されました。新事務局は、2010年4月から2012年3月まで、立命館大学文学部の伊勢俊彦研究室に置かれることとなりました。伊勢俊彦理事が事務局全般の業務を担当し、それを苅谷千尋幹事が補佐するという体制です。法政大学の事務局より業務の一部を外部に委託するという形をとることになりましたが、それでも多くの業務が事務局には課されております。今後とも、会員の皆様のご理解をお願いする次第です。事務局とともに、日本イギリス哲学会の一層の発展と円滑な運営に向けて、微力ながら、力を尽くす所存でおりますので、皆様のご指導を切にお願い申し上げる次第です。


第34回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第34回総会・研究大会は、2010年3月26日(金)・27日(土)の両日、慶應義塾大学日吉キャンパスにおいて開催された。世話人を務められた成田和信会員および慶応義塾大学のスタッフの皆様に支えられ、大いに盛況であった。

第一日目午前中の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に泉谷周三郎会員が選出され、選挙結果の報告等、各種議事が滞りなく進んだ。また総会内において、今回で第2回となるイギリス哲学会奨励賞の受賞者として、佐藤岳誌会員が発表され、続いて表彰が行われた。総会の後は、小泉仰会員による特別講演「福澤諭吉と宗教」が行なわれた。

第一日目の午後は、シンポジウムI「イギリス環境倫理思想」がおこなわれた。大久保正健・桜井徹両会員を司会として、嘉陽英朗会員、大石和欣会員、蔵田伸雄会員による報告とそれに続く活発な質疑応答がなされた。専門を異にする提題者が環境倫理という優れて今日的な主題をめぐってそれぞれの立場から討議を行うという、当学会ならではの、内容の濃い学際的なシンポジウムとなった。2日目午前中は、7人の会員による個人研究報告が3会場に分かれて行われ、若手の研究者を中心に古典から現代まで様々な分野の意欲的な研究成果が報告された。

午後にはシンポジウムII「大正期の日本思想に与えたイギリス思想の影響」が冲永宜司・名古忠行両会員を司会として行われた。報告者は西田毅氏(同志社大学名誉教授・非会員)、織田健志氏(関西大学・非会員)、鈴木貞美氏(国際日本文化研究センター・非会員)。本年は、『白樺』創刊100年にあたることもあって、このテーマ設定となった。日本におけるイギリス哲学の受容は、本学会設立時以来持続的に取り組んできたテーマであったが、このところしばらくはシンポジウムでも取り上げておらず、最近ではむしろ異色のテーマとも言える。かつての取り組みの蓄積と今回の内容をつなげ、発展させていく課題が示されたと言えるかもしれない。

また、第一日目の午後6時から、慶応義塾大学内のファカルティラウンジにて懇親会が開かれ、研究発表とはまた異なる活発な談義に花が咲いた。


第35回総会・研究大会について

次回第35回大会は、2011年3月28日(月)・29日(火)の両日、京都大学吉田キャンパスにて行われます。同大学には、竹澤祐丈会員が所属され、大会世話人として大会開催に向けてご尽力いただいております。

第1日目には総会、記念講演、シンポジウムI:ヒューム誕生300年記念シンポジウム「いまなぜヒュームか」(司会:坂本達哉、一ノ瀬正樹、報告者:真船えり、奥田太郎、壽里竜、角田俊男、第2日目には個人研究報告(5会場、14人)、シンポジウムII:イギリス思想とヨーロッパの哲学)(司会:川添美央子、関口正司、報告者:伊豆蔵好美、伊藤誠一郎、矢島杜夫)が予定されています。

また、開催校事務局のご尽力により、より多くの会員にご参加いただくために、さまざまな受け入れ準備を進めています。詳しくは同封の別紙をご参照ください。

会場、参加申込等の詳しい内容については、2月のプログラム送付の際にご案内いたします。


第2回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

中才敏郎(選考委員長 大阪市立大学)

2009年9月26日、法政大学で開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会におきまして、下記の論文を第2回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定いたしましたので、ここにご報告申し上げます。

佐藤岳詩(さとう たけし)
「ヘアの普遍化可能性原理の形式性について」

(『イギリス哲学研究』第32号 2009年 掲載論文)

応募作は合計5編で、選考過程では、(1)問題設定と論述の明確さ、(2)議論の独創性、(3)論述内容の説得性、(4)将来の研究の発展の可能性等の項目を中心に慎重に検討をいたしました。

その結果、これらの項目の多くに関して、佐藤論文が他の4編より勝っているとの結論に達しました。当該論文を受賞作とする具体的な論点は以下の通りです。

佐藤論文は、R・M・ヘアの普遍化可能性原理を取り上げ、それが形式的なものかどうかを論じています。ヘアは、一方で、道徳判断の重要な性質が普遍化可能性と指令性であると主張し、他方で、そのようなメタ倫理学上の立場から選好功利主義という実質的な主張が導出されると論じました。このことは、普遍化可能性がヘアのいうような形式的原理ではなく、実質的な原理ではないかという批判を招きました。とりわけ、J・L・マッキーは普遍化の三段階を区別し、第三段階における普遍化が実質的な道徳的主張を含んでいるとヘアを批判しました。佐藤論文は、マッキーの批判を再批判し、マッキーの議論が成功していないことを説得的に示す一方、普遍可能性原理はヘアが言うように形式的な原理であって、選好功利主義を導出しているのは、普遍化可能性原理ではなくて、指令性と合理性であると主張し、とりわけヘアの合理性が実質的な内容を含んでいるのではないか、と示唆しています。本論文は、ヘアに関する内在的な研究として、丁寧に議論を展開しており、議論の着実な展開力は高く評価されてよいと思われます。しかし、残された課題も多くあること、とくに二次文献の扱いにおいて十分でないことなどの指摘も委員の間であったことを付言せねばなりません。しかし、本論文は氏の研究の更なる発展の可能性を期待させる内容となっており、委員会としては奨励賞にふさわしい論文であるとの結論に達しました。


ACNet(外部委託業者)より

2009年4月1日より、日本イギリス哲学会様の事務支援をさせて頂いております特定非営利活動法人CANPANセンター(学会支援サービス名称:ACNet(エーシーネット))です。

住所変更等の届け出及び会費の納入状況等に関するお問い合わせは、下記のACNet事務局までお願い致します。その他の学術的なお問い合わせは、従来通り日本イギリス哲学会事務局までお願い致します。

お問い合わせ内容 1.住所・所属先等の変更 2.会費納付状況の確認 3.会誌の発送について

※入退会申請については日本イギリス哲学会事務局までお問合せ下さい。

連絡先 特定非営利活動法人CANPANセンター
ACNet事務局 日本イギリス哲学会担当係
〒105-0001東京都港区虎ノ門1-15-16海洋船舶ビル8階
TEL 03-5251-3967 FAX 03-3504-3909
メール:ac013-jsbp@canpan.org
URL:http://canpan.info/acnet


個人研究発表と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、毎年、以下の様におこなわれます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。但し、事情により変更の場合もありますので、直前にご確認ください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
 *2010-2011年度部会担当理事
  関東:坂本 達哉、柘植 尚則
  関西:久米 暁、竹澤 祐丈
  九州:関口 正司

(B)研究大会個人研究発表
申込締切 9月15日(消印有効)
発表時間 40分、質疑応答15分
レジュメ 1600字以内、英語の場合は390ワード以内
申込先  事務局

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 9月10日(消印有効)
申込方法
次の要領にしたがって投稿してください。
(投稿規程)

応募論文の審査は以下のように行われています。応募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募

者名を伏せて秘密厳守のうえ依頼しています。よって、応募者名、論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。

また編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。採否は査読者の審査結果によりますが、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に連絡いたします。


水田文庫新収蔵記念特別展について

本学会名誉会員である水田洋氏の蔵書が名古屋大学附属図書館に「水田文庫」として収蔵されたことを記念する秋期特別展「アダム・スミスと啓蒙思想の系譜」が、10月14日から11月11日まで、名古屋大学中央図書館展示室で開かれており、本学会も後援しています。10月30日には、水田洋・田中秀夫・篠原久の三氏による講演会が行なわれます。(13:30-16:30、名古屋大学中央図書館5階多目的室にて。)


事務局より

会費納入のお願い

会費未納の方は、1月末までに振り込みをお願いいたします。会費は一律6,000円です。

なお今回の会費請求で、2年間未納の方については、学会誌の送付を停止いたします。さらに5年間滞納の場合は、自然退会となりますので御注意ください。

編集後記

本年4月から立命階大学で事務局を引き受けることになりました。法政大学の前事務局では、学会事務の一部業者委託、学会奨励賞の設立など新しい方式や事業に着手され、学会のいっそうの発展の基礎が築かれたと思います。事務局の仕事も以前よりは相当楽になっているはずなのですが、実際引き受けてみると、思った以上に細々とした仕事が多いものです。これらの仕事をこなしながら、現在ACNet事務局で行なってもらっている名簿や会計の管理をされていた、これまでの事務局の方々の苦労にはまったく頭の下がる思いがいたします。

本学会通信や別紙のご案内にもあるとおり、来年3月の研究大会は、京都大学に開催をお引き受けいただき、準備を進めております。来年はヒューム生誕300年にあたり、それに合わせて研究大会でもヒュームに関するシンポジウムを開きます。奇しくもというべきか、本学会が設立された1976年はヒューム没後200年にあたっておりました。この30年余のあいだに国内外のヒューム研究も大きく進展を遂げておりますが、今回のシンポジウムでは、若手を主体としたシンポジストらによって、いっそう斬新なヒューム像が提示されることと期待されます。前大会では、久しぶりにイギリス思想の日本への影響をシンポジウムで取り上げましたが、次回のシンポジウムのもう一つは、イギリス思想をヨーロッパ的視野でとらえようという新しい取り組みです。研究発表の申し込みも例年になく多く、充実した内容の大会となりそうです。たくさんの会員の皆様と、京都でお目にかかるのを楽しみにしております。(伊勢)