日本イギリス哲学会 / Japanese Society for British Philosophy

第49号 2012.11

目 次

コンテンツ

新会長挨拶

只腰親和(横浜市立大学 国際総合科学部教授)

第19期の会長を務めることになりました。何卒宜しくお願い申し上げます。

日本イギリス哲学会は、会員のみなさまが所属されている他の近隣諸学会に比べると歴史の比較的あさい学会ではないかと推測しますが、それでもすでに35年以上の実績を積み重ねております。およそ400人の会員を擁して、すでに小学会の域は脱していると思いますが、より大きな規模の学会には見られない会員のみなさまの積極的な参加意識に支えられて、着実な歩みを遂げていると思います。

私自身はこれまでこの学会において、さまざまの専門分野におよぶ先輩の諸先生方に学びながら、自らの乏しい研究の糧とさせて頂いてまいりました。つまりこれまでの私にとって主観的にこの学会は、諸先学から広い意味で指導していただく場であったと申してよいかと思います。しかしながら私の貧しい研究業績はさしおいて客観的に周りを見渡しますと、学会のなかで私はかつての先輩の諸先生方の年齢層に属する立場になっているように思います。もとより他者から学ぶと言う点で年齢の上下は関係ありませんが、ひとつの学会の中で、これまでこの学会の基礎を築いてこられた先輩の先生方と、これからの学会を発展させていくより若い世代の会員のみなさまとの橋渡しの役割も必要かと思います。私はそのような面で少しでも貢献できたらと考えています。

会長として、イギリス哲学会が当面する実務的な、しかし決して看過できない問題への対応も必要とされるように思います。これまで学会の会費・名簿管理等の事務的機能を委託してきた日本財団CANPANセンターが、2013年から事業を休止することになりました。学会事務局・理事会では代替業者の選定も考えましたが、経費等の事情でただちに委託することは困難であることが判明しました。当面、理事の柘植尚則会員が司り、高橋和則会員が幹事として補佐する事務局がこれまでCANPANセンターに委託していた作業を行います。しかし中長期的には、これまでの慣行の改定――例えば配布文書の紙媒体から電子媒体への移行――が必要になると思います。会員のみなさまのご助言やご協力をお願いする次第です。

2013年3月の研究大会は、中才敏郎前会長のご尽力と犬塚元理事のご協力により東北大学で開催されます。2011年3月11日の東日本大震災はまだ記憶に新しいところであり、たしかに一方で震災の復興は進みつつありますが、他方でまだまだ解決の困難な課題も残されています。今回、開催を引き受けてくださった東北大学がある仙台も被災地のひとつですが、震災からおよそ2年を経て当学会が東北大学で開かれることは意義あることだと思います。学会開催時に、開催校として被災地の見学なども企画されているようです。会員のみなさまに、2013年の研究大会を活発な議論の場にするのみならず、大震災について再考する機会にして頂けたらと考えます。


第36回総会・研究大会報告

日本イギリス哲学会第36回総会・研究大会は、2012年3月27日(火)・28日(水)、国際基督教大学で開催された。世話人を務められた矢嶋直規会員および国際基督教大学のスタッフの皆様に支えられ、大いに盛況であった(参加者149名)。

1日目午前の総会では、会長挨拶、開催校挨拶に続いて、議長に田中浩名誉会員が選出され、選挙結果の報告等、各種議事が滞りなく進んだ。また、総会において、第4回日本イギリス哲学会奨励賞の受賞者として、沼尾恵会員が選ばれたと発表され、表彰が行われた。総会の後は、中才敏郎会長による講演「デイヴィッド・ヒュームの読み方」が行なわれた。

1日目午後には、シンポジウムⅠ「イギリスにおける「正義」の諸相」が開催された。山田園子・坂本達哉両会員を司会として、竹澤祐丈会員、森直人会員、姫野順一会員による報告とそれに続く活発な質疑応答がなされた。領域を異にする提題者が正義という、古典的かつ優れて今日的な主題をめぐってそれぞれの立場から討議を行うという、当学会ならではの、内容の濃い学際的なシンポジウムとなった。

2日目午前には、7人の会員による個人研究報告が3会場に分かれて行われた。若手の研究者を主として、意欲的な研究成果が報告された。近年の隆盛を反映してデイヴィッド・ヒュームとJ・S・ミルに関するものが多くなった。

2日目午後には、臨時総会の後、森本あんり国際基督教大学教授による記念講演「ハビット論による実体概念の変革―ジョナサン・エドワーズの哲学と神学」が行われ、続いて、シンポジウムⅡ「現代のイギリス哲学―ラッセル『哲学の諸問題』出版100年を記念して」が伊勢俊彦・中釜浩一両会員の司会で行われた。報告者は小草泰会員、児玉聡会員、伊佐敷隆弘会員であった。副題にある通り、バートランド・ラッセルを中心に20世紀のイギリス哲学とその発展を幅広く検討する意欲的な意見交換がなされた。

また、1日目の午後6時から、東ケ崎潔記念ダイアログハウスにて懇親会が開かれ、研究発表とはまた異なる活発な談義に花が咲いた。


第37回総会・研究大会について

第37回総会・研究大会は、2013年3月25日(月)・26日(火)の両日、東北大学片平キャンパスにて行われます。同大学には、犬塚元会員が所属され、世話人としてご尽力いただいております。

1日目には、総会、会長講演、シンポジウムⅠ:バークリ『三対話』刊行300年(司会:伊勢俊彦、久米暁、報告者:中野安章、竹中真也、一ノ瀬正樹)、2日目には、個人研究報告(3会場、9名)、シンポジウムⅡ:イギリス思想とアメリカ(司会:岩井淳、松井名津、報告者:西村裕美、田中秀夫、冲永宜司)が予定されています。

なお、会場、参加申込等の詳しい内容については、2月のプログラム送付の際にご案内いたします。


第4回日本イギリス哲学会奨励賞・選考結果

中釜浩一(選考委員長 法政大学)

2011年9月24日に開催されました「日本イギリス哲学会奨励賞」選考委員会におきまして、下記の論文を第4回「日本イギリス哲学会奨励賞」の受賞作とすることに決定いたしましたので、ここにご報告申し上げます。

沼尾恵(ぬまお けい)
'Reconciling Human Freedom and Sin: A note on Locke’s Paraphrase'

Locke Studies, 10)

本委員会では、『イギリス哲学研究』第34号掲載論文および一般応募論文の中から、奨励賞の資格要件を満たす5編に関して委員会で慎重な検討が行われ、その結果、沼尾氏の上記論文が本年度の受賞作にふさわしいということで、委員全員の意見が一致いたしました。

本論文の主題は、自由意志に関わるロックの説明がEssayとParaphraseの二著作の間で異なっており、このことはロックがパウロの神学を研究することを通して、人間の罪深さへの認識を深め、自らの自由意志に関する思想を転換させた結果である、と何人かの解釈者によって主張されているのに対して、Essayにおける「自由意志」について異なった読解を提示することによって、この解釈に対して反論を試みようとするものです。沼尾氏は、Essayの「自由意志」に関係する部分と、ロックとLimborchとの間でかわされた書簡を丹念に読み返すことによって、上記解釈者達が注目した「私の意志に反して罪の業を強いられる」というParaphraseの行文を、Essayの考えと整合的に解釈することが可能である、と主張します。その際、沼尾氏の解釈の核となるのは、Essayで展開されている自由意志には、行動の直前にあってその行動を決定する意志と、将来の善のために現前する善へ向けた行動を保留し、「将来において正しい行為を遂行すると意図すること」を意図する、という「二次的意図」とが存在するのであって、Paraphraseで問題になっているのは後者の方だという点です。このことに基づいて、「自由意志」に関するロックの考えには二著作の間で根本的転換はなかった、という結論を沼尾氏は引き出します。本論文においては、以上の論点が、適切な引用と明確な推論によって手堅くまとめられております。

選考においては、テキスト解釈の妥当性、先行研究を踏まえた上での解釈の独創性、論述の明晰さ等について、選考対象となった個々の論文について立ち入った検討を行いましたが、沼尾氏の論文はいずれの点においても、奨励賞にふさわしい水準に達していると本委員会は判断いたしました。


個人研究発表と論文の公募のお知らせ

各種の公募は、毎年、以下の様におこなわれます。希望者は下記の要領で期日までに申し込んでください。

(A)各部会研究例会報告
申込締切 各部会研究例会の3ヶ月前
報告時間 60分
申込先  各部会担当理事または事務局
 *2012-2013年度部会担当理事
  関東:一ノ瀬 正樹、山岡 龍一
  関西:久米 暁、竹澤 祐丈

(B)研究大会個人研究発表
申込締切 9月15日(消印有効)
発表時間 35分、質疑応答15分
レジュメ 1600字以内(題目・氏名・所属を除く)、英語の場合は390ワード以内
申込先  事務局
申込方法 メール(添付ファイル)または郵送

(C)『イギリス哲学研究』掲載論文
申込締切 9月10日(消印有効)
申込方法 郵送のみ

公募要領・執筆要領については、『イギリス哲学研究』最新号の「『イギリス哲学研究』執筆に関する諸規定」に従ってください。

なお、応募論文の審査は以下のように行われています。応募論文は、匿名の査読者2名により審査されます。査読者は、編集委員会が編集委員を除く会員のなかから選出し、応募者名を伏せて秘密厳守のうえ依頼しています。よって、応募者名、論文名、査読者名は、編集委員会と事務局以外には非公開となっています。

また、編集委員は、応募者にも査読者にもなれません。採否は査読者の審査結果によりますが、理事会において掲載論文を決定後、投稿者に連絡いたします。


ACNet(外部委託業者)より

1. 住所・所属先等の変更、2. 会費納付状況の確認、3. 学会誌の発送、については、下記のACNet事務局までご連絡・お問い合わせください(2012年12月まで)。

入退会の申請、その他の学術的なお問い合わせについては、従来どおり、日本イギリス哲学会事務局までお願いいたします。

連絡先 特定非営利活動法人CANPANセンター
ACNet事務局 日本イギリス哲学会担当係 〒107-8404 東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル5階 CANPANセンター TEL: 03-6229-5104 FAX: 03-6229-5116 E-mail: ac013-jsbp@canpan.org URL: http:// acnet.canpan.info


ACNetによる学会支援事業の休止について

本学会では、2009年より、特定非営利活動法人CANPANセンターの提供する学会支援サービス「ACNet(エーシーネット)」に、学会業務の一部を委託してまいりましたが、2012年度をもって、ACNetによる学会支援事業が休止されることになりました。具体的には、会計に関する業務については、本年12月末日をもって、その他の業務についても、来年3月末日をもって休止されます。

現在は、1. 住所・所属先等の変更 2. 会費納付状況の確認 3. 学会誌の発送、につきましては、ACNet事務局が連絡・問い合わせ先になっておりますが、来年1月1日以降は、事務局にご連絡・お問い合わせください。入退会など、その他につきましては、従来どおり、事務局にご連絡・お問い合わせください。

目下、学会業務の今後について、理事会で協議がなされており、外部委託を継続するかどうかも含めて、検討が行われております。ただ、業務の性質上、来年4月より、ただちに別の業者に委託するのは難しいため、しばらくは、事務局においてすべての業務を行うことになります。

事務局としましては、会員の皆様にご不便をお掛けせぬよう最善を尽くす所存ですが、業務の移行期間(本年11月~来年6月)は、混乱が生じる恐れがございます。さらなるご迷惑・ご心配をお掛けすることになるかと存じますが、ご協力のほど、なにとぞ宜しくお願い申し上げます。


事務局より

ご挨拶

本年4月より、本学会の事務局が立命館大学より慶應義塾大学に移りました。学会業務全般に不慣れゆえに、会員の皆様にはいろいろとご迷惑をお掛けいたしますが、何卒ご協力を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。

会費納入のお願い

会費未納の方は、本年12月末までに振込をお願いいたします。会費は一律6,000円です。なお、今回の会費請求で2年分(12,000円)以上の未納の場合には、来年4月の学会誌の送付が停止されます。さらに、5年分(30,000円)以上の滞納の場合には、自然退会となります。くれぐれもご注意ください。

発送について

これまで、活動計画に従い、「学会通信」の発送を10月中旬に、「部会研究例会案内」の発送を11月上旬に行ってまいりましたが、本年は、経費の削減のため、「学会通信」と「部会研究例会案内」をまとめてお送りさせていただきました。ご不便をお掛けし、誠に申し訳ございませんが、ご理解のほど、宜しくお願い申し上げます。

今後の学会業務について

学会業務の委託業者の変更に伴い、委託費用の大幅な増加が予想されます。そこで、学会費の値上げを避けるべく、理事会では、学会業務の経費の削減について、協議がなされております。たとえば、近年の他学会の動向に鑑みて、将来的には「学会通信」「総会・研究大会プログラム」「部会研究例会案内」を電子ファイルで提供し、紙媒体での送付を原則として廃止することで、印刷・発送に係る費用を削減する、といった案も検討されております。また、中長期的には、近年の研究環境の変化に対応すべく、『イギリス哲学研究』の電子化も検討されております。なお、協議の内容については、次回の総会にて中間報告がなされる予定です。